2017年7月25日火曜日

絶対と絶対の間

もし「絶対確実に儲かるものがある」という情報があるとするなら、それは詐欺だと思うのですが、なぜか「絶対確実な儲け話」に飛びつく人が後を絶ちません。

金融知識がない高齢者が絶対儲かる新規公開株で騙されたりしますが、実は有名な企業経営者や富裕層も結構騙されます。その最たるものが、2008年12月に発覚した元ナスダック会長バーナード・マドフによる史上最大の投資詐欺事件です。

彼は「10%以上の確実な配当」を謳い文句に総額650億ドルの資金を集めましたが、実際には運用をしないでネズミ講方式でファンド出資者に配当を支払い続けていました。しかしリーマンショックを機にその自転車操業も限界に達し、詐欺行為が判明したのです。

映画監督のスティーブン・スピルバーグ氏などの多くのセレブ達、また金融のプロと言われる銀行や保険会社もこの詐欺被害にあっています。

このように「投資詐欺事件に騙された人がいる」などの情報を耳にすると、一般的には儲からなくても損をしなければいいという心理が働くのも無理はありません。別に儲からなくても「絶対に損をしない銀行預金とかタンス預金」でいいと考え、資産運用管理に対し無関心になる人も出てくるでしょう。(実際には銀行が破たんしたらペイオフ制度で1000万円までしか確実な保障はないのですが…)

しかしこの考え方にも大きな誤りがあります。なぜなら預金は表面上は絶対に損をしないかもしれませんが、物価上昇を加味した実質価値でみた場合、長期的には損をする可能性が極めて高いからです。

数字で見ると過去40年間(1975年~2015年)の日本の消費者物価は平均で年率1.7%上昇しています。単純計算だと40年前に100円で買えたものは現在193円。

一方で同期間の普通預金の金利は0.8%。40年間で100円が137円という計算です。

その差は0.9%。193円-137円=56円。100円の普通預金は40年という時間をかけ、ゆっくりと確実に累積で56円の損を出したとも言えます。

このような話をすると、過去40年で見ると、前半20年はインフレ率が高く、1995年以降はデフレになっているので、今では話が違うのではと思う方もいらっしゃることでしょう(実に鋭い指摘です)。

しかし物価と普通預金の差を検証すると、国や時代に関わらず、概ね普通預金の金利は物価上昇率に勝っていません。

直近では先週7/20、日銀が金融政策決定会合で2%のインフレ目標を先送りし、物価上率を2017年度+1.1%、2018年度+1.5%、2019年度+1.8%と発表しました。2018年度、2019年度は分かりませんが、2017年度はほぼ確実な数字かと思います。

要するに足元で物価は年で1.1%上昇しているということ。一方普通預金金利は0.001%。まあゼロに近いので、普通預金の実質価値は1年で1.1%減少するということです。

これは過去40年の平均にほぼ近い数字です。今後も普通預金金利は物価上昇率に対して1%低いと仮定するなら、100万円の普通預金の10年後の実質価値は90万4382円、20年後は81万7907円、30年後は73万9700円ということになります。

こう考えると、やはり生活予備資金や5年以内に確実に使うお金は普通預金で確保し、将来の資産形成等は正しい合理的なかたちで投資を行うべきだと思います。
「絶対儲かる投資話」と「絶対損をしない預金」の間にある適切な場所で。

ちなみに絶対儲かると絶対損をしないの間にある、世界株式市場(MSCIワールド指数)は、過去40年の同期間、上がったり下がったりしながらも平均で8.6%上昇しています。それは100円が40年間で2,720円になったということ。

100%ではないが過去の経験則に基づき、そして「今後も変わらないであろう原理原則」に基づき、多少不安はあるかもしれないが、将来に向けて投資を行う。その姿勢こそが健全であり、また豊かな未来を創るために必要なマインドセットなのだと思います。

「変わらざる中心を持たない限り、激しい変化に対応することはできない。」
(7つの習慣の著者、スティーブン・R・コビィー)

2017年7月18日火曜日

情報とのつきあい方

資産運用業は「金融産業」であると同時に「情報産業」とも言えます。

投資家は様々な情報を元に投資の意思決定を行いますが、
企業や年金等の機関投資家は四半期、半期、年度などの決算期があるが故に
結構、短期思考の投資行動にでてしまうことが多いように感じます。

例えば、株式市場に短期的な悪い情報が出て、株価が底値の時(本来は買い時)、周りの投資家が売却しているという情報を目の当たりにして、自分たちも急いで売却してしまうというミスを意外に犯しています。(だからいっその事、資産運用を感情がないロボットに任せた方がいいのではという考えもでてきたりしている。)

一方で長期投資家は、長期情報の予測(それを個人的に合理的信念と呼びたい)をベースに、市場の過剰反応で短期的に割安になった証券をここぞとばかりに購入します。
そんな数少ない本物の運用会社を資産運用のパートナーにすることは、皆さんの人生をより豊かにすることにつながると私は信じます。

ところで先週「FRB、ECB等の量的緩和縮小」や「中国経済の減速(車やスマホの販売減速)」等が盛んに報道され、今後のマーケットに警鐘を鳴らしています。※危機感を煽っているという言い方もできるかもしれません。

「量的緩和の縮小ができるところまで経済が回復してきた」とか、「中国経済が量から質へ転換する中で、無駄な投資の代わりに、高度な消費活動が今後も成長を牽引するだろう」といったポジティブな側面からの声はほとんど見受けられません。

私が思うに、成功している長期投資家は「長期の視点で世の中のポジティブな側面に焦点をあてる方法で情報処理」を行っている気がします。それは決して物事を都合よく解釈するとか、現実から目を背けるということではありません。「証券市場のリターン(収益)の源泉」もしくは「優れた投資機会といったもの」は、世の中のポジティブな側面の中に存在することを、彼らは経験的にも直感的にも理解しているのでしょう。

一方、一般的な投資家がなぜ情報に踊らされ、右往左往しているかと言うと、それは短期の視点で、必要以上に世の中のネガティブな側面に焦点をあてる方法で情報処理をしているからです。

何はともあれ、世の中(社会・経済・金融等)と自分自身(収入・支出・資産・負債等)をつなぐ「情報」というものを、正しいフレームワークと考え方で処理することが、個人の資産運用を成功させるうえで大変重要なことだと私は思います。

「長期投資家にとって、本当に大切な情報とは何か?」この点については、今後も会社として、また個人としても、しっかり広く情報発信していきたいと考えております。

ビッグデータとかAIとか騒がれるこの時代、
資産運用に限らず「生きていくうえで情報といかにつきあうべきか?」

誰もが、改めて考えてみる必要があるのではないでしょうか。

2017年7月11日火曜日

GPIFの運用を見て思うこと

先週7月7日、私たちの公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立法人)の2016年度運用成績が公表されました。結果は+5.94%(市場運用部分)。GPIFは運用資産を約145兆円も有する世界最大の機関投資家ですから、運用益も約8兆円と巨額となりました。

ところで、GPIFは2001年度から本格的に金融市場で資産運用を開始したのですが、以前は主に年金福祉事業団が財政投融資債を購入するかたちで運用を行っていました。しかしそれでは日本国民の大事な老後資金がどのように運用管理されているのかが極めて不透明であることから、独立した運用管理機関(GPIF)をつくり透明性の高い運用をしようということになったのです。

現在は基本的に国内債券35%、国内株式25%、外国債券15%、外国株式25%というバランス(資産配分)で運用することになっています。

ところでGPIFが2001年度に市場運用を始めてから、常につきまとうのが「国民の大事な老後資金を株式や為替の変動に晒して、損を出したらどうするのだ!」という、マスコミを中心とした批判の声です。

ちなみに2015年度のGPIF運用成績は-4%で約5兆円資産が減少しています。
この時もアベノミクスの失敗とか、年金がギャンブルをしているなどという論調で、一部のマスコミが騒ぎ立てていました。こうして一般的な日本人に「投資は危ない」という刷り込みがされていった気もします。

ここでGPIFの過去10年の市場運用の成績をご覧ください。

【過去10年の運用成績】
2007年度 -6.4%
2008年度 -10.0%
2009年度 +9.6%
2010年度 -0.5%
2011年度 +2.5%
2012年度 +11.3%
2013年度 +9.3%
2014年度 +12.9%
2015年度 -4.0%
2016年度 +5.9%
(10年間の平均リターン+2.76%、資産増加+31%)

運用成績を単年度でみると、10年間でマイナスの年が4回。プラスの年が6回。
(特に当初、100年に一度と言われるリーマンショックが起きていることに注目)
冷静に見て、かなり運の悪い10年と言ってもいいでしょう。

とは言え、もしもGPIFが短期の変動を回避して、元本割れのない預貯金で運用をしていたとしたなら(実際には巨額過ぎて預金も難しいのですが…)、この10年間で資産は全く増えず、年金財政はさらに悪化したことでしょう。

GPIFは市場運用を開始した2001年度~2002年度にもITバブル崩壊にあって大きなマイナスを出しましたが、2001年度~現在にいたる資産運用の累積収益は約50兆円にも上ります。国民の大事な老後資金を長期の視点でしっかり増加させているのです。

それでも海外の優れた機関投資家の運用成績には全く及ばないのが実情ですから、今後ますます運用改革をして、少しでも私たちの老後資金を増やしてほしいものです。

しかし残念ながら…、GPIFがいくら頑張っても、それによって私たちの退職後の生活が良くなることはないでしょう。

日本の年金制度は賦課方式で、基本的に現役世代の年金保険料(掛け金)から年金受給者の年金が支払われる仕組みです。

過去、現役世代の掛け金が給付より多かった分、毎年それが蓄積され、それが今のGPIFの運用資産になっています。資産規模は約145兆円と確かに世界最大級ではあるのですが、今後は確実に取り崩しのステージに入ってきます。

平成27年時点、現役世代で年金を払っている人の数は約6712万人、年金をもらっている人は約4025万人。概ね6人で4人を支えている構図です。そして現在、日本全体で年間の年金給付がいくらかというと約50兆円です。この数字は今後も増加していくことを考えると、GPIFの145兆円も少なく感じます。

このように現役世代と年金受給者の比率、年金給付の絶対額を見ると、我が国の公的年金がいかに厳しい状況か、よく解ります。

今後はGPIF(年金)に退職後の生活を頼るのではなく、GPIFの運用を参考に、自分自身の資産運用をどうするかを考えるべきなのだと思います。

「投資が危ないのではなく、投資をしないことの方が危ない。」
GPIFの運用を見ながら、そんな時代のメッセージを感じます。

2017年7月4日火曜日

マーケット・レビュー(2017年6月)

早いもので2017年も半分が過ぎました。今年の中間地点において「世の中で何が起き、金融市場がどう動いたか?」ご確認頂くと同時に「ご自身の資産運用、仕事、生活等にどのような影響があるか?」是非考えてみてください!

■2017年6月の注目ニュース(社会・経済)

1日、トランプ米大統領が地球温暖化対策の枠組み「パリ協定」離脱を表明。
2日、異次元緩和で日銀総資産(5月末時点)が500兆円を超える(GDP比93%)。
2日、IT株上昇で世界株式の時価総額が76兆㌦になり、2年ぶりに過去最高更新。
2日、日経平均が1年半ぶりに2万円回復。
2日、米国の5月雇用統計は、前月比13.8万人増(予想18万人)。
4日、トヨタと米電気自動車テスラが提携を解消。今後は強力なライバル関係に。
5日、サウジアラビア等アラブ諸国がカタールと国交断行。
6日、世界半導体販売額は前年比+11.5%。IOTでメモリー、センサー需要拡大。
9日、英国総選挙で与党が敗北。メイ首相が続投表明も影響力の低下が免れない。
9日、ナスダック急落。最近急ピッチで上げてきた反動と短期筋の手じまい売り。
10日、米国の経済成長戦略がロシアゲートの影響で停滞する見通しが相次ぐ。
13日、米ドル実効レートが8ヵ月ぶりの低水準(トランプ大統領以前の水準)。
13日、米ヤフーが消滅(通信大手ベライゾンの買収完了)。日本ヤフーは継続。
14日、米FRBが今年2回目となる0.25%の利上げを実施(1%~1.25%誘導目標)。
14日、米利上げ後に世界株高。長期金利が低位安定し、株式市場に安心感。
14日、FRBイエレン議長は、年3回の利上げを維持する政策シナリオを公表。
16日、日銀は金融緩和の維持を決定(9ヶ月連続)。金融緩和の出口は見えず。
16日、アマゾンが米高級食品ホールフーズ・マーケットを買収。
18日、フランス下院選挙で、マクロン新党が大勝、EUの結束に光明。
20日、ソニーの株価が9年ぶりの高値をつける。ゲーム事業の収益性を評価。
21日、NY原油価格が9ヶ月ぶりの安値。OPECが減産しても、他の国が増産。
23日、英国EU離脱から1年。英国では通貨安、インフレ率上昇など経済に影。
24日、欧州中央銀行(ECB)はイタリアの中小銀行の破綻処理を決定。
26日、エアバックのタカタが民事再生法申請。負債総額1兆円超。
26日、昨年度の対日直接投資は3兆円を突破して過去最高に(シャープの買収等)。
27日、銀行の国債保有は202兆円と過去最低に(5年間で半分に)。
28日、欧州国債利回りが急上昇。金融緩和の縮小の見方強まる(ユーロ高)。
29日、欧州の金利上昇をきっかけに銀行の利ザヤ改善期待から金融株が上昇。
29日、中国の通信機器大手ファーウェイが日本に生産拠点を新設。
29日、ソニー29年ぶりにアナログレコードの自社生産を再開。

■2017年6月の金融市場の動き

【6月末の長期金利】 世界の長期金利は小幅上昇も低位安定。
日本10年国債  0.08% 前月比+0.035% 年初来 +0.035%
米国10年国債  2.30% 前月比+0.1%  年初来 -0.14%
ドイツ10年国債 0.43% 前月比+0.13% 年初来 +0.237%
英国10年国債  1.25% 前月比+0.22%  年初来 +0.01%

【6月末の先進国株式】 概ね堅調も欧州株式と米ナスダックに調整売り。
日本(TOPIX)  1611.90  前月比+2.8% 年初来+6.1%
米国(S&P500)  2423.41  前月比+0.5% 年初来+8.2%
(ナスダック) 6140.42  前月比-0.9% 年初来+14.1%
ドイツ(DAX)  12352.12 前月比-2.3% 年初来+7.4%
英国(FTSE100) 7312.72 前月比-2.8% 年初来+2.4%

【6月末の新興国株式】 概ね横ばい、原油価格に連動するロシア株は軟調。
中国(上海総合)  3192.43  前月比+2.4% 年初来+2.9%
インド(SENSEX) 30921.61 前月比-0.7% 年初来+16.1%
ブラジル(ボベスパ)62899.87 前月比+0.3% 年初来+4.4%
ロシア(RTS)   1000.96  前月比-5.0% 年初来-13.1%

【6月末の商品市況】 原油価格を中心に商品市況は下落。
WTI原油先物(1バレル)46.04ドル 前月比-4.7% 年初来-14.3%
NY金先物(1オンス) 1240.7ドル 前月比-2.5% 年初来+7.9%

【6月末の為替市場】(+は円安 -は円高)年初からの円高圧力弱まる。
米ドル/円  112.48円  前月比+1.6% 年初来-3.8%
ユーロ/円  128.45円  前月比+2.6% 年初来+1.2%
英ポンド/円 146.49円  前月比+2.6% 年初来+1.7%
豪ドル/円  86.73円   前月比+5.7% 年初来-0.4%

■長期投資の視点 「日米欧の金融政策の現在地」

先月、米国FRBが今年2回目の0.25%の利上げを実施し(FFレート誘導目標を年1%~1.25%に)且つ、量的緩和の出口戦略を具体的に検討し始めました。また欧州ECBドラキ総裁もデフレからインフレを意識する発言をし、欧州でも量的緩和の出口が意識されました。一方で日銀は政策決定会合において9カ月連続の金融緩和維持を決定、黒田総裁はデフレに戻るリスクを避けるため、金融緩和の出口はまだ見えていないことを示唆しました。日米欧の中央銀行の金融政策の違いが、大変解りやすく示された2017年6月だったと言えます(為替市場は円安に反応)。

米国では昨年来の金利上昇に伴い、低所得者向けの自動車ローンの焦げ付きが増えるなど、実体経済への悪影響も見え始めていますが、経済全般は概ね良好と言えます。

さて日本においても、これから数年以内に金融緩和の出口を迎えるときが必ず来ます。日銀は過去数年の金融緩和に伴う国債やETFの購入で、今や資産が500兆円を越え、GDPに匹敵する規模に膨れ上がり、その財務内容はFRBやECBよりもリスキーな状態とも言えます。米国のように実体経済への悪影響を極力抑えながら、金融緩和の出口を出ることができるかどうかは相当心配な状況。最近、日本の不動産市況がピークアウトしてきている模様ですが、それは近い将来の金利上昇リスクを意識し始めた動きなのかもしれません。

このように金利の動きは、金融市場だけの問題ではなく、実体経済や個々人の生活に大きく関わってくる重要な問題です。株式より地味な金利や債券市場ですが、これからの動向をしっかりチェックしておく必要があります。