2021年6月18日金曜日

探求心

 2021年6月13日(日)日本経済新聞(朝刊)に掲載されていました「数学に関する特集記事」を興味深く読ませて頂きました。

読んだ方もいらっしゃると思いますが、記事の中から私がいくつか印象に残ったところをご紹介します。

数学は古代ギリシャの時代から、人々が感じる「美しさ」と切っても切れない関係にあった。例えば、古代ギリシャの数学者ピタゴラスは音の美しさから数学の真理に迫った。ピタゴラスは散歩の最中、鍛冶屋が鉄をたたく音には美しく響き合うものとそうでないものとがあることに気付いた。ピタゴラスが調べると、ハンマーの重さによって音の高さの違いが生じていた。音と音が美しく響き合う時にはハンマーの重さの比が2:1や4:3のような単純な整数比になることがわかった。この発見が音楽の音の高さを整数比で決める「ピタゴラスの音律」の発明につながった(永野数学塾 塾長 永野裕之氏:とてつもない数学より)。

17世紀になると、フランスの哲学者デカルトがx軸とy軸などの座標軸を使い、平面や空間内の点を表す方法を「変数」という概念を生み出す。そのおかげで円以外の曲線を数式で表せるようになった。この曲線から生み出された様々な美しい建築物の中でも、特に有名なのがスペインを代表する建築家アントニ・ガウディの作品だ。その設計は緻密な数学的計算に基づく。ガウディは「美しい形は構造的に安定している。構造は自然から学ばなければならない」という考えの持ち主だった。

最後に前述の永野裕之さんの以下の言葉。

「極めて困難な道のりを経て辿り着いた簡潔な結論に、数学者は美しさを感じる。」

この特集記事を見て、私は「資産運用は科学でもあり、芸術でもある」と言われることを思い起こしました。ガウディではありませんが、美しいポートフォリオは原理原則をベースに構造的に安定しています。しかしそれは机上の空論ではなく、実践からの学びによって形成されていかなければなりません。実践には困難が伴い、それを経て辿り着いたシンプルなポートフォリオこそが真の価値を生み出していくのだと私は考えます。

日本語で「美しさ」という言葉を使うとなぜかナルシスト的な感じもするので、「美しさ=真理」という言葉で表してもいいかもしれません。

さらに「真理」も堅い表現なので「ほんとうのこと」でもいいかなと…(笑)。

「ほんとうに良い資産運用とは何か?」

この特集記事を読んで、私もそれを探求していきたいと改めて思いました。

2021年4月14日水曜日

残念な話と感謝の気持ち

残念な話ではあるのですが、コロナショック後の世界株式市場の上昇局面も約1年になり、昨今、投資信託の利益確定売りをする投資家が多いように感じます(弊社でもわずかですがそのような動きが見られます)。

バリューマネジメントが提唱する長期投資の仕組みは、日々や単月や単年度の市場価格の上下変動を受け入れ、投資信託(ファンド)という箱の中で、税効果の高い複利運用を行い、長期的に資産を増加させるシステマティックなものです。

その仕組みの中で「優れた運用会社に活躍してもらいましょう!」と、彼らを信頼し長期的に資金を預けてくれた投資家の皆様の運用実績は、おそらく一般の投資家の想像を超えるものであることを(もちろん良い意味で)、弊社は商品選定を行うゲートキーパーとして、また個々のお客様の投資をサポートするファイナンシャルアドバイザーの立場から長年見てまいりました。

優れた運用会社が運用する投資信託の基準価格(設定当初は1万円)は、長年の運用実績と共に上昇し1万円から2万円(2倍)、3万円(3倍)、中には10万円(10倍)を超えるものまで存在します。しかし運用実績が良い投資信託の大半が、基準価格が上がれば上がるほど投資家に売却され残高の減少に見舞われてきました。

日本において優れた運用チームが、このような状況に陥るのを私は30年以上にわたって見てきました。改めてこの国の運用環境は、豊かさを生み出さない土壌であることを痛感します。いい仕事をすればするほど、資金を引き揚げられてしまった運用チームにも、いつもすまないなーという気持ちがなくなることは今だありません。

この1年の投資信託の売買動向をみても、昨年3月のコロナショック時には、まだまだ下がりそうなので売却したいと考えたり(そして実際、売却してしまったり)、そして1年後の今もまた、そろそろ下がるかもしれないので、このへんで利益確定をしたいと考えたり(やはり実際に売却してしまったり)するケースが結構あります。

当初は長い人生を豊かにするために10年、20年単位の投資を考えていたのに、たった1年の間に長期投資マインドを失ってしまう。このような事例はコロナが生み出した特別なケースではなく、その前の米中貿易摩擦、英国のEU離脱、とにかく何かしら世の中のイベントが起きる度に、私たちファイナンシャルアドバイザーが直面してきた問題です。

そして、その度に下記のようなことを何度もお伝えしています。

「短期の価格変動ではなく、長期的な資産成長に目を向けましょう!」

「当初の運用計画をしっかり守りましょう!」

「我々が選んだ運用チームがマーケットが下がっている時にも、将来を見据え優れた会社に投資をしてくれることを信じましょう、そして託しましょう!(それが投資信託の意味)」

「理由もなく頑張って運用成績を上げてくれている運用チームを解雇してはなりません!」(投資信託の基準価格が上がっているという理由だけで売却するというのはそういうこと)

このようなアドバイスにしたがって、長期投資マインドを堅持してくださったお客様には、「マーケットの成長+運用会社のスキルが生み出すアルファ」が、運用実績としてもれなく提供されてきました。

一方で、途中の短期変動が気になり売却してしまったお客様が、その後タイミングよくマーケットに復帰してきた事例を私たちは見たことがありません。

厳しい言い方かもしれませんが、短期の価格変動にばかり目がいく人は、目の前で見えていることしか見えない、信じないというマインドや習慣があるように感じます。

一方で長期投資を実践できる人は、一度決めたことを守り抜く精神力や、未来に対する想像力を有しているように感じます。個別の株式投資におきかえても「今はこの会社はピンチだけど将来はきっと良くなる」そんな想像力を発揮しなければ、本当の意味で安い価格で良い会社を買うことはできません。

個人的なことで恐縮ですが、いつ頃からか私自身、短期的な証券取引を一切やらなくなりました。短期取引は自分の利益の反対側に損失を被る人がいて、それがイコールで結びついているからです。要するに自分の幸福=他人の不幸という図式。

それに対して長期投資の成功は投資した会社の「成長の果実」を、株主・社員・取引先・地域・社会で分配(シェア)していくこと意味します。まさしく株式がイギリス英語でシェア(share)と呼ばれる所以です。

投資信託においても、私たちは良い運用会社をラインナップしつつ、お客様の人生設計や財政状況を考慮して長期投資計画を立てます。

お客様とファイナンシャルアドバイザーと運用会社。その三位一体のチームプレーが長期投資を成功に導くためにもっとも重要だと私は考えます。

お客様にも、投資ポートフォリオの運営管理の先に、私たちのようなファイナンシャルアドバイザーや運用チームがいるという想像力を持って頂けるとうれしいです。これは私たちの努力を理解してほしいから言っているのではなく、それを理解することがお客様自身の長期投資の成功確率をあげていくことになっていくから、敢えてお話しをしているのです。

日本の投資の土壌に「長期視点」と「信頼のネットワーク」を根付かせたい。現実はそれとは逆の力がITの便利さによって増幅しているように感じますが、バリューマネジメントは地道に諦めずに進んでいきたいと思います。

そして何だか突然ですが…(笑)、私たちの投資コンセプトにご賛同を頂いております弊社のお客様に、この場を借りて改めて御礼を申し上げます。

長期の視点を持ってバリューマネジメントと弊社パートナーの運用チームを信頼して頂き、いつも本当にありがとうございます。

これからも何卒よろしくお願い申し上げます!!

2021年2月25日木曜日

約1年ぶりにブログを更新します。

先日、私のブログを楽しみに読んでくださっていた方がいらっしゃるとお聞きしたものですから、約1年ぶりにブログを更新することにしました。

さて昨年の2/25(今からちょうど1年前です)、イタリア北部でコロナウイルス感染者が出たことを発端に所謂コロナショックと呼ばれる世界同時株安が始まりました。その後、3/24までの1ヵ月間、100年に一度と言われたリーマンショックとほぼ同時の速度で世界の株式市場は下落していきました。

当時の私が書いたブログを読みかえしてみると、コロナによる経済的打撃は、例えるなら外傷でありリーマンショックのような経済の内臓疾患ではないので、株式市場の下落もリーマンショック時のように長引くことはない。そんな内容のオピニオンを出しています。

「その予想は的中したかどうか?」と問われると、当たったとも言えるし外れたとも言えます。コロナショックからの経済の回復期間を考えると、流石に世界株式市場も全治2年くらいはかかると思っていましたので…。

しかし1年後の今日、例えば私たちに馴染みのある株式指標で見ると、日経平均株価は約30000円、NYダウも約32000ドル。

1年前、もし私が1年後に日経平均は3万円を超えると言ったなら、おそらく殆どの人は「この人、頭がおかしいのでは?」と思ったでしょう。

当時のことを思い返すと実際、そんな予想をすることは私を含め殆ど不可能だったのではないでしょうか?逆にもっと下がるから、一度売った方がいいのではという相談を多く受けたくらいです。

結果的にコロナショックによるマーケットの下落が1ヵ月で終わったのは、コロナから国民の命を守るために、世界の主要国政府・中央銀行は躊躇なく金融・財政政策をフル稼働させたからです(コロナとの戦争に打ち勝つため)。※残念ながら個人的には、日本政府の動きには疑問を抱くことになってしまいましたが…。

そして、株式市場が予想を超えて上昇した要因は、コロナが多くの人命を奪い私たちの生活を不自由なものにした一方で、デジタル化投資(DX)、脱炭素を中心とした社会的責任投資(ESG)等、今後の世の中の進化・発展に必要不可欠と思われていたイノベーションを加速させたからです。

その結果として、世界の株式市場はこの1年間で大きく上昇しました。後になって振り返れば、このような理由づけをするのは簡単ですが、1年前は悲観的なニュースしかなくほぼ予測不可能だったと思います。

「さてそれでは、今後の株式市場はどうなっていくのか?」と問われるなら、1年前と同様、どうなるかわからないというのが正直なところです。

コロナショックでまたしても学んだことは、足元の社会経済で起きていることから、将来の金融市場を予測することは困難であるということです。

現在の状況を見ると、ビットコインや一部のIPO銘柄、スタートアップ企業の価格水準は、明らかに金融緩和によるバブルと言っても差し支えないかと思います。この事象だけをみてまたバブルだから長期投資ポートフォリオを一回売却した方がいいのではないかと思う人も出てきそうですが、それはやめておいた方が賢明でしょう。それは1年前にもっと下がりそうだから売った方がいいのではないかという投資家心理と根本的には同じものだからです。

30年以上資産運用の仕事をしてきて断言できるのは、短期予測や不安心理によって為される投資行動は人生を真の豊かさから遠ざけるということです。

長期投資家は短期の価格変化ではなく長期の価値創造にフォーカスすべきです。

各国政府の財政政策の変化(MMT的)、DX、ESGという社会経済、企業活動のメガトレンドが、本格的な潮流になりつつあります。例えば日本電産の永守会長はガソリン車から電気自動車や水素燃料への変化はこれから50年にわたる大きな潮流であると発言しています。

これらのメガトレンドが存在することは、長期投資家にとってまだまだ成長の果実が多く存在することを意味します。

短期的な予測は見通せませんし、毎年のようにマーケットは高値からみると10%~20%は普通に下落しています。これらの短期変動を所与のものとし、長期の成長の果実を時間をかけて収穫していく。そんな長期投資の視点を共有してくださる投資家を、この日本でもっと増やしていくためにも、流石にもう少しブログを更新しなくては…(苦笑)。